現在の児童相談所を「児童相談所」「養育者相談所」「関係機関相談所」の3つの専門部門に分割することを提案します。これは、単なる組織の分割ではなく、専門性の向上と支援の質的改善を目指した抜本的な改革です。
なぜ3部門制が必要か
現在の児童相談所は、子ども、保護者、関係機関すべてへの対応を一体的に行っているため、深刻な問題が生じています。支援の専門性が不足し、同じ職員が異なる立場の人々に対応することで適切な距離感を保つことが困難になっています。また、限られた人材と時間が様々な業務に分散され、効率的な支援の提供ができていない実態があります。
現状の支援における具体的な課題
以下に各分野における課題をまとめました。
子どもへの支援における課題
- 心理的ケアの不足(専門家の不足、時間の制約)
- 継続的な関係構築の困難さ
- 子どもの意見表明機会の不足
- 発達支援の専門性不足
保護者支援における課題
- 介入と支援の役割混在による関係構築の困難さ
- 専門的なプログラムの不足
- 継続的な支援の時間確保の困難さ
- メンタルヘルスケアの不足
関係機関連携における課題
- 連携窓口の分散
- 情報共有の非効率さ
- 支援方針の不統一
- 予防的取り組みの不足
これらの課題は、現在の児童相談所が抱える構造的な問題から生じています。特に、「専門性の不足」「人員・時間の不足」「役割の混在」という三つの要素が、それぞれの分野での効果的な支援を困難にしています。
こうした現状を打破するため、児童相談所の3部門制という新たな組織体制を提案します。「児童相談所」「養育者相談所」「関係機関相談所」という専門特化型の組織に再編することで、これらの課題に対する効果的な解決を目指します。以下、各部門の具体的な機能と、それによってもたらされる改善点についてさらに詳しく提案していきます。
各部門の具体的な役割と機能
児童相談所の機能と特徴
子どもに特化した支援を提供する部門として、子どもの心理ケアとトラウマ治療に重点を置きます。心理職を中心としたチーム編成により、子どもの年齢や発達段階に応じた専門的な支援を可能とします。特に重要なのは、子どもの権利擁護の視点です。アドボケイト(こどもの深層心理を理解し代弁する者)の配置により、子どもの意見表明権を実質的に保障し、支援に反映させる仕組みを構築します。
また、虐待を受けた子どもに多い発達障害への専門的な支援も重要な機能です。教育機関と密接に連携しながら、学習支援や生活支援を含めた包括的な発達支援を提供します。一時保護所との連携も強化し、保護中の子どもの心理的ケアの充実を図ります。
養育者相談所の機能と特徴
保護者への支援に特化した部門として、虐待の背景要因に応じた個別的な支援プログラムを提供します。特に重要なのは、保護者自身の抱えるトラウマやメンタルヘルスの課題への対応です。精神保健福祉士や臨床心理士を中心としたチームが、保護者の心理的ケアを担当します。
生活支援も重要な機能です。経済的困窮、就労問題、住宅問題など、様々な生活課題に対して、具体的な支援を提供します。社会福祉士を中心に、各種福祉制度の活用や就労支援機関との連携を図り、養育環境の改善を支援します。
関係機関相談所の機能と特徴
支援ネットワークの構築に特化した部門として、関係機関との連携調整の中核を担います。特に重要なのは、要保護児童対策地域協議会の実効的な運営です。単なる情報共有の場ではなく、具体的な支援策を協議し、実行する場として機能させます。
また、地域における虐待予防の取り組みも重要な役割です。市町村や保健センターと連携し、養育リスクの早期発見と予防的支援の仕組みを構築します。特に、妊娠期からの切れ目ない支援体制の整備に力を入れます。
具体的な業務フローと連携体制
通告受理から支援開始までの流れ
初期対応は3部門が合同で行います(注:自身の政策で介入特化部署の新設を提言していますが、その部署が出来ていればそこで対応する)。通告を受けた段階で、各部門の専門家が参加する初期評価会議を開催し、支援方針を決定します。その後、各部門が専門性を活かした支援を開始しますが、定期的なケース会議により情報共有と方針の確認を行います。
部門間の連携方法
週1回の定例カンファレンスに加え、ICTを活用した日常的な情報共有システムを構築します。特に重要なのは、リアルタイムでの情報共有と、支援の進捗管理です。また、緊急時の連絡体制も確立し、24時間365日の対応を可能とします。
外部機関との連携体制
関係機関相談所が窓口となり、学校、医療機関、警察等との連携を一元的に管理します。特に重要なのは、各機関との具体的な役割分担と、情報共有のルール作りです。また、定期的な連携会議を開催し、顔の見える関係づくりを進めます。
人材育成と専門性の確保
専門研修プログラムの内容
各部門の専門性に応じた研修プログラムを開発します。特に重要なのは、実践的なスキルの習得です。座学だけでなく、ロールプレイやケーススタディを多く取り入れ、現場で活用できる実践力を養成します。また、外部の専門家による研修も積極的に導入します。
キャリアパスの確立
各部門でのスペシャリストとしてのキャリアパスを確立します。経験年数や習得したスキルに応じて、段階的にステップアップできる仕組みを作ります。また、専門性に応じた処遇改善も行い、人材の定着を図ります。
実現に向けた課題と対応策
予算措置
- 人件費:専門職の増員と処遇改善
- 施設整備費:各部門の独立した空間の確保
- システム構築費:ICTを活用した情報共有システムの整備
- 研修費:専門研修プログラムの開発・実施
段階的な導入プロセス
1年目:モデル地域での試行実施
2年目:課題の抽出と改善
3年目:全国展開の開始
想定される課題への対応
- 人材確保:処遇改善と研修制度の充実
- 連携体制:ICTの活用と定例会議の設定
- 予算確保:国への予算要望と地方自治体との協議
期待される効果と展望
3部門制の導入により、支援の専門性が大きく向上し、より効果的な虐待対応が可能となります。各分野のエキスパートによる支援提供は、これまでの課題を大きく改善することが期待されます。
まず、児童相談所による専門的な心理ケアの充実により、虐待を受けた子どもたちの心の回復がより確実なものとなります。子どもの意見表明権が実質的に保障されることで、支援内容にも子どもの意思が適切に反映されるようになります。また、発達支援の専門性が向上することで、子どもの成長に応じたきめ細かな支援が可能となります。
養育者相談所の設置により、保護者支援も大きく改善します。介入と支援の役割が分離されることで、より信頼関係に基づいた支援が可能となり、家族再統合への道筋がより明確になります(再統合を推進しているわけではありません)。特に、保護者自身の抱える課題へのケアが充実することで、虐待の再発防止と、健全な親子関係の構築が期待できます。
関係機関相談所の専門的な連携調整により、地域全体での見守り体制が強化されます。予防的な取り組みが充実し、虐待の早期発見・早期対応が可能となります。また、支援方針の統一性が確保されることで、より一貫性のある支援の提供が実現します。
このように、虐待の予防から発見、保護、自立支援まで、切れ目のない支援体制の構築が可能となります。3部門それぞれが専門性を発揮しながら、互いに連携することで、より効果的な子どもの権利擁護が実現するのです。
さらに、職員の専門性向上と業務負担の適正化により、支援の質が継続的に向上していくことも期待できます。これは、児童福祉の将来を担う人材の育成にもつながり、長期的な視点での体制強化が実現します。
このような包括的な支援体制の確立により、虐待の世代間連鎖を断ち切り、すべての子どもが安心して成長できる社会の実現に近づくことができるでしょう。3部門制の導入は、児童虐待対応における新たな時代の幕開けとなるはずです。
おわりに
3部門制の導入は、児童虐待対応における画期的な改革となります。課題は多いものの、子どもたちの命と権利を守るため、この改革を着実に進めていく必要があります。専門性の向上と連携の強化により、より効果的な支援体制の構築を目指していきます。