現状と課題
我が国の社会的養護施設は、深刻な危機に直面しています。一時保護施設、乳児院、児童養護施設のいずれにおいても、施設数の不足と環境面での課題が山積しており、支援を必要とする子どもたちに十分なケアを提供できていない状況にあります。
深刻な施設不足の実態
全国の一時保護所の定員は約2,000人程度であり、年間約5万人の保護が必要な子どもたちに対して著しく不足しています。緊急保護が必要な場合でも、定員超過により受け入れができない事態が頻発しています。
また、乳児院は全国でわずか130か所程度、児童養護施設も約600か所程度に留まっており、地域による偏在も著しい状況です。特に都市部では慢性的な定員超過が続いており、適切な保護・養育の実施に支障をきたしています。
施設環境の質的課題
現在の多くの施設では、以下のような環境面での深刻な問題を抱えています。
- 大規模集団での養育が中心となっており、個別のケアが不十分
- 施設の老朽化が進み、安全面での不安も存在
- プライバシーに配慮した個室や小規模ユニットが不足
- 学習支援や心理的ケアのための専用スペースが確保できていない
- 家族との交流のための適切な空間が不足
解決に向けた具体的施策
1. 施設の緊急整備計画の実施
現状の施設数を5年間で2倍に増加させることを目標とし、以下の施策を実施します。
新規施設建設の推進
- 国の予算を大幅に拡充し、新規施設建設費用の100%を補助
- 用地取得費用の補助制度を創設(都市部における整備を促進)
- 民間施設の参入促進のため、運営費補助を大幅に増額
- 建設にかかる規制緩和と手続きの簡素化を実施
既存施設の改修・増築支援
- 老朽化した施設の全面改修費用を90%まで補助
- 増築・改築による定員拡大への特別補助制度を創設
- 耐震化、バリアフリー化等の安全対策工事への補助率引き上げ
2. 施設の小規模化・家庭的養護の推進
子どもたちにより家庭に近い環境を提供するため、以下の取り組みを実施します。
小規模ユニットケアの標準化
- 1ユニット6人程度の小規模グループケアを基本形に
- 個室または2人部屋を標準仕様として整備
- 共有スペースを家庭的な雰囲気に改装
- キッチンやリビングなど、生活空間の充実
専門的ケア施設の整備
- 心理療法室の必置化と整備費用の全額補助
- 学習支援室の設置義務化と設備購入費の補助
- 家族交流室の整備と必要な備品の支援
- 医務室の充実と医療機器の整備支援
3. 施設機能の高度化・多機能化
各施設の機能を強化し、より充実したケアを提供できる体制を整備します。
医療機能の強化
- 常勤看護師の配置基準の引き上げ
- 協力医療機関との連携強化のための補助制度創設
- 医療的ケア児の受け入れ体制整備への特別支援
教育支援機能の充実
- 学習支援員の増員と配置基準の引き上げ
- ICT教育環境の整備(1人1台端末の実現)
- 学習塾や家庭教師との連携支援制度の創設
実現に向けた課題
財政的課題
本政策の実現には、年間約4,000億円の追加予算が必要と試算されますが、優先順位の高い問題と考えます。
人材確保の課題
施設数の増加に伴い、保育士や児童指導員などの人材確保が必要となります。処遇改善や養成機関の拡充が求められます。
用地確保の課題
特に都市部において、新規施設建設のための適切な用地の確保が課題となります。公有地の活用や、土地利用規制の見直しなどの検討が必要です。
期待される効果
子どもへの直接的効果
- 一人一人に対するきめ細かなケアの実現
- 心理的安定感の向上と健全な発達の促進
- 学力向上と将来の自立に向けた準備の充実
- 医療ケアの充実による健康管理の向上
社会的効果
- 虐待等の緊急事態への即応体制の確立
- 地域の子育て支援機能の強化
- 施設退所後の自立支援の充実
- 社会的養護の質的向上による次世代育成支援の強化
経済的効果
- 建設・改修工事による地域経済の活性化
- 新規雇用の創出
- 将来的な社会保障費の抑制
- 次世代の健全な社会参加者の育成
おわりに
社会的養護施設の整備は、子どもたちの未来への投資であり、社会全体で取り組むべき最重要課題の一つです。確かに、本政策の実現には多額の予算と様々な課題の克服が必要となりますが、それは次世代を担う子どもたちの健全な成長のために必要不可欠な投資として捉えるべきものです。
施設の量的拡充と質的向上を同時に進めることで、支援を必要とする全ての子どもたちに、適切な養育環境を提供することができます。それは、子どもたち一人一人の幸せな未来を保障するだけでなく、社会全体の持続的な発展にもつながるものです。
私たちには、子どもたちの育ちを社会全体で支える仕組みを作る責任があります。本政策の実現に向けて、政治の場でも、また社会全体でも、できる限り速やかな取り組みを開始すべきときが来ています。