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悲劇を繰り返さないために - 医療的ケア児支援法改正案

8歳の少女が、17時間以上も放置され、命を落としました。痰の吸引が必要な医療的ケア児であった彼女を、32歳の母親は置き去りにし、窒息死させてしまったのです。

この事件に接し、多くの人が母親を非難するでしょう。確かに、命を預かる親としての責任は重大です。しかし、母親を責め立てるだけでは、同じような悲劇は何度でも繰り返されるでしょう。なぜなら、この事件の本質は、24時間365日休むことなく続く介護の重圧に、一人の母親が押しつぶされてしまったことにあるからです。

医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律が施行されているにもかかわらず、なぜこの命は救えなかったのか。その答えは、法律の不備と実効性の欠如にあります。子どもの命を守るのは、親だけの責任ではありません。社会全体で支える仕組みをつくること、それは国の責務のはずです。

この痛ましい事件を契機に、僕たちは医療的ケア児支援の在り方を根本から見直す必要があります。そして、その第一歩として、以下の法改正を提案します。

現行法の限界と課題が浮き彫りに

理念法から実効性のある法律へ

僕が最も問題だと感じるのは、現行法が理念法的な性格が強く、具体的な数値目標や罰則規定がないことです。支援センターの設置や人材確保について、「できる」規定が多く、自治体の裁量に委ねられすぎています。

予算措置の不十分さ

第八条では「財政上の措置」について触れていますが、具体的な予算規模や配分方法が明確でないため、実効性のある支援につながっていません。

法改正による具体的な改善案

医療的ケア児支援センターの機能強化

必置義務化と人員基準の明確化

第十四条の改正案:
・都道府県および政令指定都市における支援センターの設置を義務化
・人口50万人につき1カ所以上の設置を義務付け
・専門職の必置基準を設定(看護師、社会福祉士、医療ソーシャルワーカー各1名以上)

24時間対応体制の義務化

第十四条への追加条項:
・支援センターは24時間365日の相談対応体制を整備すること
・緊急時対応コーディネーターの配置を義務付け

レスパイトケアの制度化

緊急レスパイト制度の創設

新設条項案:
・都道府県は緊急レスパイトケア施設を人口100万人につき1カ所以上整備すること
・施設は24時間365日の受入体制を整備すること
・利用者負担は原則無料とし、費用は公費で負担する

レスパイトケア利用権の保障

新設条項案:
・医療的ケア児の家族に月間最低60時間のレスパイトケア利用権を保障
・利用権は積立可能とし、最大180時間まで繰り越し可能

人材確保・育成の具体策

医療的ケア専門職の処遇改善

第二十条への追加条項:
・医療的ケア専門職の給与を一般看護師の1.2倍以上とすることを義務付け
・夜間・休日手当の加算率を規定

研修制度の義務化

新設条項案:
・医療的ケア児支援に関わる全ての職種に年間30時間以上の研修受講を義務付け
・研修費用は公費負担とする

財政措置の具体化

予算措置の明確化

第八条の改正案:
・国は毎年度、医療的ケア児支援のために必要な予算を確保すること
・予算総額は医療的ケア児一人当たり年間500万円以上を目安とする

補助金制度の創設

新設条項案:
・医療的ケア児支援に取り組む民間事業者への補助金制度を創設
・設備投資の2/3以上を補助

監督・評価体制の強化

第三者評価制度の創設

新設条項案:
・支援センターの運営状況を評価する第三者委員会の設置を義務付け
・評価結果の公表を義務付け

改善命令の強化

第十七条の改正案:
・改善命令に従わない場合の罰則規定を設ける
・悪質な場合は刑事罰の対象とする

自治体に求められる具体的なアクション

条例の制定と予算措置

  • 医療的ケア児支援条例の制定(数値目標含む)
  • 専門部署の設置と人員配置
  • 独自の上乗せ支援策の実施

関係機関との連携強化

  • 医療機関とのネットワーク構築
  • 教育機関との連携体制の確立
  • 民間事業者との協力体制の整備

効果検証と見直し

モニタリング体制の構築

  • 四半期ごとの実施状況レビュー
  • 支援を受けた家族へのアンケート調査
  • 課題の抽出と改善策の立案

定期的な法改正

  • 3年ごとの法改正を義務付け
  • 社会状況の変化に応じた柔軟な対応
  • 現場の声を反映させる仕組みの構築

このような具体的な法改正と制度設計により、医療的ケア児とその家族を実効性のある形で支援することが可能になるはずです。理念だけでなく、具体的な数値目標と予算措置、そして実施状況のモニタリングまでを一体的に進めることが重要です。

行政の「できる」規定を「しなければならない」規定に変更し、具体的な実施基準を設けることで、地域間格差のない支援体制を構築することができます。そして、このような制度改革こそが、痛ましい事件の再発を防ぐための第一歩となるのです。

古沢かずよし

古沢かずよし

政策研究から導く解決策を発信中。こども虐待死を無くす為の具体的改革案によって、現場と政策をつなぎ救える命を救う。メディア向け執筆依頼も承ります。

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