里親委託率の低迷
我が国の里親委託率は約20%にとどまっており、欧米諸国の7~9割という水準と比較して著しく低い状況が続いています。この背景には、里親制度に対する社会的認知の低さや、里親希望者への支援体制の不備など、構造的な問題が存在しています。また、里親委託を推進すべき児童相談所の体制も十分とは言えず、マッチングや支援のためのマンパワーが不足している状況です。
里親支援体制の脆弱さ
現在の里親支援は、主に各都道府県や政令市の里親支援機関に委ねられていますが、支援の質や量には地域格差が大きく、里親が孤立しやすい状況となっています。特に、発達障害や愛着障害など、特別なケアを必要とする子どもたちの養育については、専門的な支援が不可欠であるにもかかわらず、十分な体制が整っていません。
経済的負担の重さ
里親に支給される養育費は十分とは言えず、多くの里親が自己負担を強いられています。特に、医療費や教育費などの特別な支出については、公的支援が限定的であり、里親家庭の経済的負担となっています。この状況は、新たな里親のなり手を確保する上での大きな障壁となっています。
解決に向けた具体的施策
1. 国による里親制度の一元管理
里親制度を国の直接的な管理下に置き、全国統一的な基準と支援体制を確立します。具体的には、厚生労働省内に「里親支援庁」を新設し、里親の認定から支援までを一貫して管理する体制を構築します。これにより、地域による支援の格差を解消し、全国どこでも同質の高水準な支援を受けられる体制を実現します。
2. 里親支援体制の抜本的強化
全国300カ所に「里親総合支援センター」を設置し、24時間365日の支援体制を確立します。各センターには、児童福祉の専門家、心理職、医療職などの専門スタッフを配置し、里親家庭が直面するあらゆる課題に対応できる体制を整えます。特に以下の支援を重点的に実施します。
- 委託前の十分な研修と準備期間の確保
- 定期的な訪問支援と相談対応
- 緊急時の即応体制の確立
- レスパイトケアの充実
- 里親同士のネットワーク構築支援
3. 経済的支援の大幅拡充
里親への経済的支援を抜本的に見直し、以下の支援を実施します。養育費を現行の2倍以上に引き上げ、子ども一人当たり月額20万円を基準とします。これに加えて、医療費、教育費(学習塾や習い事を含む)、住居費(必要な改修費用を含む)などを全額公費負担とします。
また、里親が仕事を休む必要がある場合の所得保障制度を創設し、子どもの養育に専念できる環境を整えます。さらに、委託児童が18歳を超えて進学する場合の支援も充実させ、大学等の学費や生活費を支援します。
4. 専門里親の拡充
特別なケアを必要とする子どもたちのために、専門里親制度を拡充します。専門里親には、より手厚い研修と支援を提供するとともに、通常の里親の1.5倍の養育費を支給します。また、医療・療育機関との連携体制を強化し、必要な専門的支援をいつでも受けられる体制を整えます。
実現に向けた課題
行政体制の整備
新たな制度の運営には、国と地方自治体の役割分担の見直しが必要です。特に、現在の児童相談所との連携体制の構築や、新設する里親支援庁の組織体制の整備には、慎重な検討が求められます。
財政的課題
本改革の実現には、年間約3,000億円の予算が必要と試算しています。これには、里親への直接的な経済支援に加え、支援センターの設置・運営費用も含まれています。安定的な財源の確保に向けた具体的な検討が必要です。
人材確保・育成
里親総合支援センターの運営には、多くの専門職スタッフが必要となります。特に、里親支援の経験を持つ専門職の確保は容易ではなく、計画的な人材育成が求められます。
期待される効果
里親委託率の向上
手厚い支援体制の確立により、新たな里親のなり手の増加が期待できます。また、既存の里親の継続率も向上し、5年以内に里親委託率を40%まで引き上げることを目指します。
養育の質的向上
専門的な支援体制の充実により、里親による養育の質が向上します。特に、特別なケアを必要とする子どもたちへの支援が充実し、それぞれの子どもの状況に応じた適切な養育が可能となります。
社会的認知の向上
国による一元的な管理と支援体制の確立により、里親制度に対する社会的認知と信頼が高まることが期待されます。これにより、社会全体で子どもを育む機運の醸成にもつながります。
おわりに
里親制度の抜本的改革は、社会的養護を必要とする子どもたちに、より家庭的な環境での成長の機会を提供するために不可欠な取り組みです。確かに、その実現には多額の予算と様々な課題の克服が必要となりますが、それは子どもたちの健やかな育ちを保障するために必要な社会的投資として捉えるべきものです。
本改革の実現により、一人でも多くの子どもたちが、安定した家庭的環境の中で成長できるようになることを目指します。それは、次世代を担う子どもたちの幸せな未来を保障するとともに、私たちの社会をより豊かなものとする重要な一歩となるはずです。