政策提言

「児童福祉法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第66号)に異議を唱える

一時保護時に司法審査を入れる事には断固反対

令和4年6月8日に成立した「児童福祉法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第66号)において、児童相談所長等が一時保護を行うに当たっては、親権者等の同意がある場合等を除き、その開始から7日以内又は事前に裁判官に対して一時保護状を請求しなければならないこととする等の仕組み(以下「一時保護時の司法審査」という。)が創設されることとなりました。

子どもの命を守る緊急保護の実効性を高めるため、司法審査のタイミングを「保護時」から「保護解除時」へと変更することを提案します。この改革により、必要な保護をためらうことなく、かつ、解除の判断をより慎重に行うことが可能となります。

現状の課題

保護時司法審査の問題点

  • 介入の遅れ
    裁判所の許可を得るまでの時間的ロスにより、必要な保護が遅れ、取り返しのつかない事態に発展するケースが発生する可能性があります。特に、夜間や休日の緊急対応では、司法審査のために貴重な時間を失うことになります。
  • 証拠収集の困難
    保護の必要性を裁判所に説明するための十分な証拠を短時間で収集することは極めて困難です。そのため、明らかに危険な状況でも、介入を躊躇せざるを得ない状況が生じています。
  • 職員の心理的負担
    司法審査に耐えうる証拠がないことへの不安から、必要な保護判断を躊躇する事態が発生する可能性があります。結果として、子どもの安全確保が後手に回るケースが少なくありません。

保護解除時司法審査の意義

基本的な考え方

  • 子どもの安全最優先
    疑わしい段階での保護を可能にし、解除の判断を慎重に行うことで、子どもの安全を最大限確保します。緊急時の介入をためらわない体制を作ることが可能となります。
  • 証拠の充実
    保護期間中に十分な調査と証拠収集を行うことが可能となり、より適切な判断が可能になります。保護者の改善状況なども、時間をかけて評価できます。
  • 適正手続きの確保
    保護解除という重要な判断に司法審査を導入することで、より慎重な判断が可能になります。また、保護者の権利保障も図られます。

具体的な制度設計

保護時の手続き

  • 緊急保護の要件
    子どもの安全が懸念される場合、速やかな保護を実施。「疑わしきは保護」の原則に基づき、躊躇ない介入を可能にします。
  • 初期調査の実施
    保護後72時間以内に詳細な調査を実施。この段階では司法審査は不要とし、専門職による判断を優先します。
  • 保護の継続
    初期調査で安全が確認できない場合、保護を継続。この間に詳細な調査と証拠収集を行います。

保護解除時の手続き

  • 解除前審査の実施
    家庭裁判所による審査を義務付け。以下の点について、専門家を交えた慎重な判断を行います

解除前審査の審査項目

虐待リスクの低減状況

虐待リスクの低減を評価する際は、家庭環境の具体的な変化に着目します。経済状況の安定、居住環境の改善、同居者との関係性などの環境要因を確認します。また、保護者の怒りのコントロールや精神状態の安定性、ストレス対処能力の向上といった心理的要因も重要な判断材料となります。特に、子どもへの関わり方や感情表現の変化、体罰によらないしつけの実践など、具体的な養育態度の改善が見られることが必要です。

保護者の改善努力

保護者の改善への取り組みは、具体的な行動として表れていることが重要です。ペアレンティングプログラムやカウンセリングへの積極的な参加、約束事の遵守、定期的な面会の実施などが評価の対象となります。特に重要なのは、虐待行為を認識し、その影響を理解した上で、自発的に支援を求める姿勢が見られることです。改善の必要性を自覚し、具体的な行動として表現できているかどうかが判断の鍵となります。

再発防止策の実効性

再発防止のためには、具体的で実効性のある対策が確立されていることが必要です。ストレス解消法の獲得や問題解決スキルの向上など、実践的な対処方法を身につけていることが求められます。また、定期的な家庭訪問の受け入れや関係機関との情報共有など、外部からのモニタリングを受け入れる体制が整っていることも重要です。特に、危機的状況が発生した際のSOSの出し方や、具体的な対応プランが明確になっていることが必要です。

支援体制の整備状況

家族を支える体制は、公的支援とインフォーマルサポートの両面から整備されている必要があります。要保護児童対策地域協議会による見守りや保健師の定期訪問といった公的支援に加え、親族や地域住民による日常的な支援体制も重要です。また、医療機関や学校との連携体制が確立され、子どもの状況を多角的に把握できる体制が整っていることが求められます。これらの支援が一時的なものではなく、持続可能な形で提供される見通しが立っていることが、解除判断の重要な要素となります。

実施体制の整備

裁判所の体制

  • 専門部の設置
    家庭裁判所内に児童虐待専門部を設置。専門的知見を持つ裁判官と調査官を配置します。
  • 迅速な審理
    申立てから2週間以内の審理終結を目標とし、子どもの生活の安定を図ります。

児童相談所の体制

  • 調査体制の強化
    保護期間中の詳細な調査を行うための専門チームを配置。保護者への支援も並行して実施します。
  • 証拠収集の充実
    科学的な評価手法の導入や、多職種による総合的な評価を実施します。

関係機関との連携

情報共有体制

  • データベースの構築
    関係機関による情報共有システムを整備。過去の経緯や支援状況を一元管理します。
  • 支援ネットワーク
    地域の関係機関による支援体制を構築。解除後のフォローアップ体制も整備します。

実現に向けた課題

法制度の整備

  • 児童福祉法の改正
    保護解除時の司法審査を義務付ける法改正が必要です。保護者の権利保障との調和も図ります。
  • 審査基準の明確化
    解除の判断基準を法的に明確化。専門家の知見を踏まえた基準作りが必要です。

人材・体制の整備

  • 専門人材の確保
    裁判所、児童相談所双方での専門職の増員が必要です。継続的な研修体制も整備します。
  • 施設の整備
    一時保護所の拡充と質的向上が必要です。長期保護に対応できる環境整備も重要です。

期待される効果

直接的効果

  • 保護の実効性向上
    必要な保護をためらうことなく実施できるようになり、子どもの安全確保が確実になります。
  • 判断の適正化
    解除時の慎重な判断により、再虐待のリスクが低減されます。
  • 証拠の充実
    十分な調査期間の確保により、より適切な判断が可能になります。

長期的効果

  • 再虐待の防止
    慎重な解除判断により、再虐待のリスクが低減されます。
  • 支援の充実
    保護期間中の十分な調査により、より適切な支援計画の策定が可能になります。

導入に向けたプロセス

段階的導入

  • モデル実施
    特定の地域でのモデル実施から開始し、課題を抽出・改善します。
  • 体制整備
    必要な人材育成と施設整備を段階的に進めます。

検証と改善

  • 効果検証
    定期的な評価と検証を行い、必要な改善を実施します。
  • 基準の見直し
    実践を踏まえた判断基準の見直しと改善を継続的に行います。

おわりに

保護解除時の司法審査導入は、子どもの安全確保と適正手続きの両立を図る重要な改革です。緊急時の保護をためらわず、かつ解除の判断を慎重に行うことで、より確実な子どもの権利擁護が可能となります。

この改革の実現には多くの課題がありますが、子どもの命と権利を守るため、必要な制度整備を着実に進めていく必要があります。関係機関の連携と社会全体の理解を得ながら、新たな児童虐待対応の仕組みを構築していきましょう。

古沢かずよし

古沢かずよし

政策研究から導く解決策を発信中。こども虐待死を無くす為の具体的改革案によって、現場と政策をつなぎ救える命を救う。メディア向け執筆依頼も承ります。

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