政策提言

「人生リセット法」ー 子どもたちの命を救うための新たな挑戦

現状と問題点

我が国における18歳未満の自殺は深刻な社会問題となっています。文部科学省の統計によると、2022年度10代の自殺者数は796名で、前年から約6.3%増加しました。これは1日あたり約2.2人の子どもが自殺していることを意味します。自殺増加の背景には、いじめ、家庭内暴力、虐待、貧困など、複雑な社会問題が存在しています。特に注目すべきは、多くの若者が「死にたい」と考えながらも、本当は「今の生活から逃れたい」「今の自分を変えたい」という願望を持っているという点です。

現行の制度では、虐待や深刻ないじめから逃れるための法的手段が限られており、児童相談所による一時保護や施設入所などの対応では不十分な場合が多々あります。特に、加害者である保護者の親権が優先される現状では、子どもたちの人権や生存権が十分に守られているとは言えません。

「人生リセット法」の概要

「人生リセット法」は、18歳未満の子どもたちに、文字通り人生をリセットする機会を与える画期的な法律です。この法律の核となる考え方は、憲法第25条に保障される生存権の徹底的な擁護です。死を選ぶ前に、新しい人生を選択できる道を提供することで、若い命を救うことを目指します。

主な特徴

本法律では、対象となる子どもに以下の権利が付与されます。

新しい戸籍の作成:旧戸籍上では死亡扱いとなり、完全に新しい戸籍が作成されます。これにより、過去の記録から完全に切り離された新しいアイデンティティを持つことができます。

自己決定権の尊重:新しい名前、誕生日を自分で選択することができます。これは単なる記録の変更以上の意味を持ち、新しい人生の出発点として重要な意味を持ちます。

生活支援の保障:住居、教育、医療など、基本的な生活環境が国によって保障されます。

具体的な解決策

1. 包括的な支援体制の構築

専門施設の設置

  • 全国の主要都市に「人生リセットセンター」を設置
  • 心理カウンセラー、ソーシャルワーカー、法律専門家を常駐
  • 24時間対応のホットライン設置
  • 一時保護から新生活開始までのワンストップサービス提供

2. 法的フレームワークの確立

「人生リセット法」の実効性を確保するためには、強固な法的基盤の整備が不可欠です。まず、新しい戸籍作成に関する法的手続きについては、現行の戸籍法を補完する形で、特別な法的地位を創設します。具体的には、家庭裁判所による審判を経て、旧戸籍を閉鎖し、完全に独立した新戸籍を作成する制度を確立します。この過程では、未成年である申請者の意思を最大限尊重しつつ、その判断能力や状況の客観的評価を行うため、児童福祉の専門家や心理カウンセラー、アドボケイターによる意見書を必須とします。

プライバシー保護については、新旧の身元情報を厳格に管理する特別な規定を設けます。この情報は、最高レベルの機密情報として扱い、アクセス権限を持つ者を限定的に定めます。具体的には、特定の裁判官、専門の行政官、そして緊急時の医療従事者のみが、厳格な手続きを経てアクセスできる体制を構築します。また、情報漏洩に対する罰則規定を設け、違反者に対しては厳重な処罰を科すことで、情報管理の実効性を担保します。

支援対象者の権利保護については、包括的な法的枠組みを新たに構築します。これには、教育を受ける権利、医療へのアクセス、住居の確保など、基本的人権の保障に加え、特別な法的保護も含まれます。例えば、過去の戸籍に記載されていた親権者からの接触を法的に制限する保護命令制度や、新しい身元での就学・就労を円滑に進めるための法的支援制度などを整備します。さらに、支援対象者が成人するまでの間、国が特別後見人となる制度を確立し、未成年者の権利と利益を確実に保護する体制を整えます。

これらの法的フレームワークは、単に制度の枠組みを定めるだけでなく、実際の運用面でも実効性のある仕組みとして機能する必要があります。そのため、定期的な制度の見直しと改善を行う規定も盛り込み、社会状況の変化や新たな課題に柔軟に対応できる体制を整えます。また、これらの法的保護が確実に実施されているかを監督する第三者機関の設置も法律に明記し、制度の透明性と信頼性を確保します。

3. 自立支援プログラムの実施

「人生リセット法」の中核を担う自立支援プログラムは、対象となる子どもたちの新生活を包括的に支援する体制として構築します。まず、専門の養護施設については、従来の児童養護施設とは一線を画す新たな形態の施設として整備します。これらの施設は、一人一人にプライバシーが確保された個室を基本とし、24時間体制の心理カウンセラーや生活指導員を配置します。また、施設内には学習支援室や生活訓練室を設け、子どもたちが安心して新生活をスタートできる環境を整えます。全国の主要都市に最低1施設を設置し、段階的に拡充していく計画です。

教育機会の確保については、新しい身元での円滑な学校生活を実現するための特別な制度を確立します。転校手続きについては、通常の手続きを大幅に簡素化し、個人情報の保護に最大限配慮しながら、速やかな受け入れを可能とします。また、学習の遅れを取り戻すための特別支援教員の配置や、必要に応じて個別指導を行う体制を整備します。不登校経験者には、オンライン学習と対面指導を組み合わせた柔軟な教育プログラムを提供し、段階的な学校復帰を支援します。

職業訓練・就労支援については、年齢や適性に応じた段階的なプログラムを実施します。中学生以上の対象者には、職業観を育むためのキャリア教育から始め、具体的な職業訓練へと進めていきます。高校生年齢の対象者には、地域の企業と連携したインターンシップ制度を設け、実践的な職業体験の機会を提供します。また、就職後も継続的なサポートを行い、職場での悩みや課題に対応できる相談体制を維持します。

経済的支援制度は、対象者が経済的な不安なく新生活に専念できるよう、包括的な支援体系として確立します。具体的には、生活費、教育費、医療費などの基本的な支出を賄う給付型の支援金制度を設けます。この支援金は、対象者が18歳になるまでの期間、毎月定額で支給されます。さらに、高等教育への進学を希望する場合には、特別な奨学金制度を設け、大学や専門学校への進学も可能とします。また、就職時の初期費用(住居の確保、必要な資格取得など)についても、別途支援金を支給する制度を整備します。

これらの支援プログラムは、単なる一時的な保護にとどまらず、対象となる子どもたちが真に自立した生活を送れるようになることを目指しています。そのため、各プログラムは個々の状況や必要性に応じて柔軟に調整可能な形で設計され、定期的な見直しと改善を行う仕組みも組み込まれています。また、これらのプログラムを効果的に運用するため、専門のケースワーカーが一人一人の状況を継続的に把握し、必要に応じて支援内容を調整する体制を整えます。

4. フォローアップ体制の整備

「人生リセット法」による支援は、新生活のスタート時点だけでなく、対象者が真の自立を果たすまでの継続的なサポートを重視します。まず、定期的なカウンセリングについては、各対象者に専任のカウンセラーを配置し、最低でも月2回の定期面談を実施します。このカウンセリングでは、メンタルヘルスのケアだけでなく、新しい環境での適応状況や将来への不安、日常生活での課題など、包括的な心理サポートを提供します。また、緊急時には24時間体制でオンラインカウンセリングを受けられる体制を整え、突発的な不安や困難にも即座に対応できるようにします。

生活状況のモニタリングについては、専任のケースワーカーが中心となり、多面的な観点から対象者の状況を把握します。具体的には、学校や職場での適応状況、健康状態、経済状況、対人関係の形成など、生活全般にわたる定期的な確認を行います。このモニタリングは、対象者のプライバシーに最大限配慮しながら、支援の必要性を見極めるための重要な指標として活用されます。また、モニタリングの結果は、支援計画の見直しや調整にも反映され、より効果的な支援の実現につながります。

必要に応じた追加支援については、モニタリングによって把握された課題や本人からの要望に基づき、柔軟かつ迅速に提供される体制を整えます。例えば、学業面での特別な支援が必要な場合は個別の学習支援を、就労に関する課題がある場合は職業訓練や就労支援の強化を、経済的な困難が生じた場合は臨時の経済支援を実施するなど、状況に応じた適切な支援を提供します。これらの追加支援は、定期的な支援評価会議で検討され、支援の効果や継続の必要性について専門家チームによる慎重な判断のもとで実施されます。

コミュニティとの連携支援は、対象者の社会的な孤立を防ぎ、健全な社会関係の構築を促進するための重要な要素として位置づけられます。具体的には、地域の青少年支援団体、スポーツクラブ、文化活動グループなどとの連携を図り、対象者が安心して参加できる社会活動の機会を創出します。これらの活動への参加は完全に任意であり、対象者の意思と準備状況を十分に考慮して進められます。また、参加する際には、対象者の新しいアイデンティティを守りながら、健全な対人関係を築けるよう、専門スタッフによるサポートが提供されます。

さらに、同じ経験を持つ対象者同士が、互いの経験や思いを共有できる場として、専門家の管理のもとでのピアサポートグループも運営します。このグループ活動は、新しい人生を歩み始めた者同士が経験を共有し、互いに励まし合える貴重な機会となります。ただし、参加は完全に任意とし、個人情報の保護には特に厳重な注意を払います。

これらの継続的サポートシステムは、対象者一人一人の状況と必要性に応じて柔軟に調整され、定期的な評価と改善を重ねながら運営されます。支援の終了時期については、対象者の自立状況や本人の意思を十分に考慮しながら、慎重に判断していきます。また、支援終了後も、必要に応じて相談できる窓口を維持し、生涯にわたるセーフティネットとしての機能を果たします。

法的・制度的課題

  1. 戸籍法との整合性
    現行の戸籍制度との整合性を図る必要があり、法改正の範囲が広範になることが予想されます。特に、新しい戸籍作成に関する法的根拠の確立が重要な課題となります。
  2. プライバシー保護
    新旧の身元情報の管理について、極めて高度な情報セキュリティ対策が必要となります。また、情報漏洩防止のための法的措置も必要不可欠です。
  3. 予算確保
    施設整備、人材確保、運営費用など、多額の予算が必要となります。財源の確保と効率的な運用方法の確立が求められます。

社会的課題

  1. 社会的理解の促進
    本制度の必要性について、広く社会の理解を得る必要があります。特に、「逃げ道を与えることで問題解決を放棄させる」という批判への適切な対応が必要です。
  2. なりすまし防止
    本制度を悪用した犯罪や不正行為の防止策を確立する必要があります。
  3. 関係機関との連携
    警察、教育機関、医療機関、児童相談所など、多くの関係機関との緊密な連携体制の構築が必要です。

期待される効果

直接的効果

  1. 自殺予防
    死を選ぶ前の最後の選択肢として機能し、自殺者数の減少が期待できます。
  2. 虐待からの保護
    虐待環境から完全に切り離された新生活を提供することで、虐待の連鎖を断ち切ることができます。
  3. いじめ被害からの解放
    深刻ないじめの被害者に、完全な環境の変更という選択肢を提供できます。

間接的効果

  1. 社会的コストの削減
    自殺や虐待による社会的損失を防ぐことで、長期的には社会的コストの削減につながります。
  2. 社会的包摂の促進
    誰もが人生をやり直せる可能性があるという認識が広まることで、より包摂的な社会の実現に寄与します。
  3. 子どもの権利の強化
    子どもの生存権と自己決定権を強化することで、子どもの人権に関する社会的認識の向上が期待できます。

おわりに

「人生リセット法」の実現には、確かに多くの課題が存在します。しかし、これらの課題は、子どもたちの命を守るという本質的な目的に比べれば、決して乗り越えられない壁ではありません。

むしろ、これらの課題に向き合い、解決策を見出していく過程そのものが、私たちの社会をより良いものに変えていく機会となるはずです。「死にたい」と追い詰められた子どもたちに、新しい人生を選択する機会を提供することは、社会の責務であり、それは憲法が保障する生存権の具現化にほかなりません。

本法案の実現に向けて、まずは社会的な議論を喚起し、より多くの人々の理解と支持を得ることから始めていく必要があります。子どもたちの命を守るための新しい社会システムの構築に向けて、今こそ具体的な一歩を踏み出す時です。

子どもたちが「死にたい」と思わない社会を作ることが最終的な目標ですが、それまでの間、「人生リセット法」は、追い詰められた子どもたちの最後の希望となり得るのです。一人でも多くの若い命を救うために、本法案の実現に向けて、社会全体で取り組んでいく必要があります。

古沢かずよし

古沢かずよし

政策研究から導く解決策を発信中。こども虐待死を無くす為の具体的改革案によって、現場と政策をつなぎ救える命を救う。メディア向け執筆依頼も承ります。

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