結論から言えば、夫婦別姓制度の導入は必ずしも必要ではありません。なぜなら、本当に解決すべき問題は「女性側に改姓が強制されている」という男女の不平等にあるからです。
現行の法制度は、形式上「夫又は妻の氏」という中立的な選択肢を提供しているにもかかわらず、実に96%以上のケースで女性が氏を変更しています。つまり、新しい制度を作る前に、まずは既存の制度の中で真の男女平等を実現することこそが重要なのです。
この視点の転換は、長年の議論に風穴を開ける可能性を秘めています。以下では、その具体的な理由と解決策についてご説明します。
なぜ夫婦別姓の議論は堂々巡りなのか
皆さんは「夫婦別姓」という言葉を聞いて、どんなイメージを持ちますか?「伝統的な家族の形が崩壊する」「個人の権利の問題だ」など、様々な意見があることでしょう。
この議論が堂々巡りになっているのは、問題の本質を見誤っているからです。賛成派は「個人の権利」を、反対派は「家族の一体性」を主張し、まるで平行線のように議論が続いています。しかし、どちらの主張も本質的な問題の解決には至りません。
真の問題は「男女の不平等」
なぜなら、現在の日本では、結婚時に96%以上のケースで女性が氏を変更しているからです。これは法律上「夫又は妻の氏」と中立的な選択肢があるにもかかわらず、実質的には女性側に改姓が強制されているということです。
つまり、「別姓か同姓か」という議論の前に、「なぜ女性だけが改姓を強いられているのか」という不平等の問題を解決する必要があるのです。新しい制度を作ることは、この根本的な問題から目をそらすことになりかねません。
解決策は「主体的夫婦選姓」
この問題の解決には、新しい制度の導入ではなく、既存の制度の中で男女が真に対等な立場で氏を選択できる環境を整備することが重要です。そのための考え方として、「主体的夫婦選姓」を提案したいと思います。
これは、夫婦が社会的慣習や周囲の圧力から自由に、二人の意思で氏を選択できる環境を作ることを目指すものです。単に選択肢を増やすのではなく、現行制度の中で実質的な選択の自由を確保するアプローチです。
「主体的夫婦選姓」の考え方は、単なる制度の問題ではありません。それは、結婚における男女の関係性や、これからの家族のあり方を考え直す機会となるでしょう。そして、それは現代の日本社会が直面している様々な課題にも、新しい視点を提供するかもしれません。
政府の具体的なアクションプラン
「主体的夫婦選姓キャンペーン」の展開
このムーブメントを広げるためには、社会的な影響力を持つ人々の協力が不可欠です。例えば、実際に夫が姓を変更した著名人夫婦にキャンペーンに参加してもらい、「二人で決めた、新しいカタチ」「私たちらしい選択をしました」といったメッセージを発信していきます。
同時に、より身近な共感を生むため、インフルエンサーと連携したSNSキャンペーンも展開します。#私たちの選択 や #主体的夫婦選姓 といったハッシュタグを通じて、実際のカップルが姓の選択について話し合ったプロセスや、その決断に至った理由を共有してもらいます。こうした等身大の経験の共有は、姓の選択が特別なことではなく、夫婦にとって自然な選択肢の一つとなることを示すでしょう。
教育・啓発活動の本格展開
将来を見据えた意識改革として、教育現場での取り組みが重要です。中高生向けの男女平等教育プログラムでは、現在の状況がなぜ生まれたのかという歴史的背景を学び、なぜ96%以上のカップルが夫の姓を選択しているのかを考えます。また、諸外国の事例を通じて、より広い視野で姓の問題を考える機会を提供します。さらに「あなたならどう選ぶ?」というディスカッションを通じて、生徒たち自身が主体的に考える場を設けます。
また、より具体的な場面として、婚活の現場と連携した啓発活動も重要です。婚活サイトでの特集コンテンツ配信を通じて、姓の選択について考えるきっかけを提供します。結婚相談所では、対等な氏選択についてのカウンセリングを実施。これから結婚を考えるカップルに向けては、プレ花嫁花婿向けセミナーを開催し、二人で姓について話し合うきっかけを作ります。
このような重層的な取り組みにより、若い世代から結婚を間近に控えた世代まで、幅広い層に「主体的夫婦選姓」の考え方を浸透させることができるでしょう。
意外な副産物 - 少子化対策への効果
「自分の姓を変えてもいい」という柔軟な姿勢を持つ男性は、現代女性にとって魅力的なパートナーとなりえます。これは単なる姓の問題だけでなく、その人の価値観や男女平等への意識を表すバロメーターとなるからです。
実は、この考え方は日本の深刻な少子化問題に対する、思わぬ突破口となる可能性を秘めています。結婚相手に巡り会えていない男性の中には、従来の価値観や自身の条件にとらわれすぎている方も少なくありません。しかし、「姓は女性側のものでもいい」という一つの決断が、その人の魅力を大きく高めることがあるのです。
婚活の現場では、年収や外見といった従来の条件よりも、「価値観の一致」「対等なパートナーシップ」を重視する女性が増えています。「主体的夫婦選姓」への理解を示すことは、まさにそうした現代女性が求める要素と合致します。これまでなかなかパートナーと巡り会えなかった男性も、この一点をアピールすることで、新たな出会いのチャンスが広がるかもしれません。
実際、結婚相談所の現場では、「姓にこだわらない」という男性の評価が着実に上がっているといいます。これまで見過ごされてきた魅力が、この一つの姿勢によって引き出されるケースも少なくないといいます。
つまり、「主体的夫婦選姓」は、個人の価値観の問題であると同時に、日本の結婚・出産を取り巻く状況を改善する可能性を持っているのです。一人でも多くの男性がこの考え方に共感し、それが新たな出会いにつながることで、少子化問題の解決への一助となるかもしれません。
まとめ
「選択的夫婦別姓」の議論は、実はまだ早計かもしれません。私たちが今、最優先で取り組むべきは、既存の制度の中での男女平等の実現です。
現状では、夫婦同姓制度における96%以上という圧倒的な割合での女性側の改姓は、明らかに男女の不平等を示しています。この基本的な問題を置き去りにしたまま、新たな制度を導入することは、本質的な解決にはなりません。
まずは「主体的夫婦選姓」という考え方のもと、夫婦が真に対等な立場で氏を選択できる環境を整備することが重要です。政府による積極的な政策展開と、私たち一人一人の意識改革。この両輪で、現行制度における男女の実質的な平等を実現していく必要があります。
そして、そうした取り組みを通じてもなお解決できない問題が明らかになった時、初めて「別姓か同姓か」という議論をすべきではないでしょうか。順序を間違えないことが、この問題の本質的な解決への近道となるはずです。
さらに、この取り組みは結婚に対する新しい価値観を生み出し、これまでとは異なる出会いの可能性を広げることで、少子化問題の解決にも貢献する可能性を秘めています。
私たちに今必要なのは、新しい制度ではなく、既存の制度における真の平等の実現なのです。