なぜ今、減税なのか
「財源はどうするんですか?」
「将来世代に負担を押し付けるのではないですか?」
「財政が破綻します!」
減税政策を語る際、必ずと言っていいほど投げかけられる質問です。確かに、一般家計や企業の感覚からすれば、収入(税収)が減れば、支出を抑えるか借金をするしかない―そう考えるのは自然なことかもしれません。
しかし、この「常識」こそが、日本経済の足かせとなっているのではないでしょうか。今こそ、財源論の呪縛から解き放たれ、真に必要な経済政策を実行する時なのです。
国の財政は家計や企業とは根本的に異なります。今、日本経済に必要なのは、この「財源ありき」という発想からの脱却なのです。
物価上昇が続き、実質賃金が伸び悩む今こそ、減税による経済活性化が求められています。この政策の必要性と、よく聞く反対意見の誤りについて、順を追って説明していきましょう。
財源論の根本的な誤り
国の信用創造の仕組み
まず、国家財政の基本的な仕組みについて、重要な事実を確認する必要があります。
国には「信用創造」という特別な力があります。これは、日本銀行と連携して国債を発行することで、新たな通貨を市場に供給できる仕組みです。つまり、国は必要な政策のために、「財源がない」という制約に縛られる必要はないのです。
「国債=国民の借金」という誤解
「国の借金=国民の借金」という言説は、大きな誤解を生んでいます。国債は確かに債務ですが、それは同時に国民にとっての金融資産でもあります。その大部分は国内で保有されており、国民経済全体で見れば、債権と債務は相殺される関係にあるのです。
「将来世代へのツケ」論の間違い
将来世代への負担を懸念する声もよく聞かれます。しかし、これも経済の基本的な仕組みを見誤っています。将来世代は確かに国債の返済に関わりますが、同時にその時代の経済活動による恩恵も受けています。むしろ、必要な経済対策を怠ることこそが、将来世代への本当の「ツケ」となるのです。
減税に「財源を充てる」という発想自体の問題点
「減税の財源をどうするか」という問いかけ自体が、実は適切ではありません。この問いの背後には、減税を「歳入を減らす政策」として捉える誤った前提があるのです。
減税とは本質的に「経済を活性化させるための投資」です。これは以下の理由によります。
減税は「穴を埋めるべき支出」ではありません。それは経済全体を活性化させ、より大きな果実を生み出すための「種まき」なのです。この基本的な認識の転換なしには、効果的な経済政策を実現することはできないでしょう。
減税の本質的な目的
国民の懐を温める効果
減税の第一の目的は、国民の可処分所得を増やすことです。特に現在のような物価上昇期においては、実質所得の目減りを補う効果が期待できます。
市場経済を活性化させる仕組み
可処分所得の増加は消費を促進し、それが企業の収益を改善させ、さらなる投資や賃金上昇につながります。この好循環を生み出すきっかけとして、減税は極めて有効な政策手段なのです。
税の上げ下げは経済状況に応じた政策手段
税率を「固定されるべきもの」と考えることは、経済政策の重要なツールを放棄するようなものです。税制は、経済状況に応じて柔軟に調整される政策手段として捉える必要があります。
経済の体温計としての税制
経済活動は、ちょうど人間の体温のように適切な「温度」が存在します。経済が過熱気味なら冷やす必要があり、冷え込んでいれば温める必要があります。税制は、このような経済活動の調整弁としての役割を持っているのです。
例えば以下のような効果があります。
現在の経済状況と税制
現在の日本経済は、確かにインフレ的な物価上昇に直面していますが、これは需要過熱型のインフレではありません。むしろ、コストプッシュ型のインフレであり、実質所得の目減りによる消費低迷のリスクが高まっています。
このような状況下では、単純に「インフレだから増税」という発想は適切ではありません。むしろ、減税により可処分所得を確保し、消費の落ち込みを防ぐことが重要です。
機動的な税制運用の重要性
税制の調整は、以下のような点に注意して機動的に行う必要があります。
- 経済指標の総合的な判断に基づく実施
- 適切なタイミングでの導入
- 期間限定の施策も視野に入れた柔軟な対応
- 地域や産業の特性を考慮した選択的な実施
このように税制を柔軟な政策手段として活用することで、より効果的な経済運営が可能となります。「減税は良くない」「増税は避けるべき」といった固定観念から脱却し、状況に応じた適切な政策選択を行うことが重要なのです。
予見可能性との両立
ただし、このような柔軟な税制運用を行う際には、経済活動の予見可能性を損なわないよう、慎重な配慮が必要です。
まず、経済状況の変化に応じて税制をどのように調整するのか、その基準を明確にしなければなりません。例えば、どのような経済指標がどのレベルに達した時に、どの程度の税制調整を検討するのか。この判断基準を明確にすることで、市場参加者は将来の政策変更をある程度予測することができます。
次に、税制の変更は中長期的な経済見通しに基づいて、段階的に実施する必要があります。急激な変更は市場に混乱をもたらす可能性があります。そのため、十分な準備期間を設け、市場が適応できるペースで実施することが重要です。
さらに、政策の意図と期待される効果について、丁寧な説明を行うことも不可欠です。なぜその政策が必要なのか、どのような効果を期待しているのか、そしてそれがどのようなプロセスで実現されるのか。これらを明確に説明することで、市場の理解と協力を得ることができ、政策の効果も高まるのです。
このような配慮があってこそ、柔軟な税制運用は効果的な経済政策として機能することができるのです。
地方自治体の役割
地方債の積極的活用
国債と地方債は、一見似て非なるものです。国債は、日本銀行と連携した信用創造により、新たな通貨供給を可能にします。一方、地方債には通貨供給という機能はありません。
しかし、だからこそ地方債には異なる重要な役割があります。それは、地域特性に応じた具体的な投資を可能にする「まちづくりの道具」としての機能です。国の政策が全国一律の視点であるのに対し、地方債は地域固有のニーズに応えることができます。
地方債を「避けるべき借金」と考える必要はありません。むしろ、地域の実情を最もよく知る地方自治体が、自らの判断で投資を行うための重要な手段として積極的に活用すべきです。特に現在のような低金利環境は、地域独自の発展戦略を実行する絶好の機会といえます。
国に依存するのではなく、地方自らが地域経済の主役として行動する。地方債の積極的活用は、その第一歩となるのです。
独自減税の検討
地方自治体には、地域の実情に応じた独自の減税政策を検討することが求められています。画一的な対応ではなく、各地域の特性を活かした施策が効果的です。
無駄の削減を並行して進める
「税収が減るなら、支出を減らせばいいじゃないか」―これは、とても自然な発想です。実際、行政における無駄の削減は、常に意識されるべき重要な課題です。
それは減税の前提条件ではありませんが、この減税議論を機に、私たちは改めて行政支出の見直しについて考える必要があります。何が本当に必要で、何が不要なのか。それを住民の声に真摯に耳を傾けながら、一つひとつ丁寧に見極めていく。そうした取り組みは、より効率的で住民本位の行政運営につながるはずです。
減税と行政の効率化は、決して相反するものではありません。むしろ、両者を並行して進めることで、より健全な地方財政が実現できるのです。行政の効率化や無駄の削減は重要な課題です。しかし、これは減税の前提条件ではありません。両者は並行して進めるべき別個の政策課題として位置づけられます。
地方からの積極財政への転換
地方自治体には、地域経済の実情を熟知しているという大きな強みがあります。商店街の今、中小企業の現状、住民の暮らしぶり―これらを最もよく知る立場だからこそ、効果的な政策を打ち出すことができるのです。
減税によって財政が破綻するのではないか。そんな懸念の声をよく耳にします。しかし、それは杞憂です。適切な減税政策は経済を活性化させ、中長期的には税収増につながります。むしろ必要なのは、長年続いてきた財務省主導の緊縮財政路線からの決別です。
今、日本経済に求められているのは、国と地方が一体となった積極財政への転換です。その第一歩として、地方自治体から減税政策を積極的に展開していく。地域の実情を熟知する地方自治体だからこそ、新しい経済政策の担い手となれるのです。
地方から日本を変える。その時が、今まさに来ているのです。